SSブログ

崖の上の女性 [いなかの伝承]

DSC_5259.jpg

鬼の話しなどを思い出していたら、当時のことがいろいろ頭に浮かんで来てしまった。夏でもないのに、ちょっと涼しげなお話です。

あれは20年ほど前のこと。確か信濃川の支流、KY2(まんまだな(^^;)川だったように思う。夏の日の午後に水中メガネをかけて川に潜ると、「これほどいるのか!」とびっくりするほど多くの鮎が水中の石という石に着いていた。適当に網を投げてもいくらでもとれただろう。もちろん投網で鮎を捕ることは禁止されているけど。

で、そんな川に夜になると入って行く。鮎やイワナ、ヤマメが岩の下の水流が弱くなったところで寝ているのを手掴みで捕まえると、魚に傷が付かずに高く売れるのだ。見てとれるので、サイズも大きいところで安定するのもメリットの1つ。

とはいえ、人気も明かりもない夜中の谷川など、よほどの度胸とあらゆることに対する自信がなければできることでもない。私も人について行けばできるが、1人でやれと言われたら、お金をもらってもやりたくないことだ。ただし、手掴みできる魚とりは氷水に浸かるような冷たさを我慢すれば、格別に楽しいことは確かだった(これはもちろん犯罪です)。

そんな夜中の川に連れて行ってくれたのは友人の弟さんで、雪の中カンジキを履いて猟に連れて行ってくれたり、雪原に山菜を取りに行ったり、「落ちたら死ぬよ、去年も亡くなった」と、ロープを伝って絶壁でワラビを採ったり、キノコ狩りに連れて行ってくれたりと、なにかと世話を焼いてくれた。熊狩りはさすがにおいて行かれたけど、常識は持ち合わせていたが、同時に遊びも心得ていた。体力も精神力も人一倍あったように思う。

その彼が顔面蒼白で戻って来たのはある夏の日の深夜だった。近くの定食屋の息子と一緒に川に入って行ったのだが、魚を捕っていてフッと気が付いて崖の上を見ると(この川の片側は数十メートルの崖になっているところが多い)、月をバックに白い服を着た長い髪の女性が立って見下ろしていたのだという。もちろん崖に上がる道などない。

最初はそんなところに人がいる訳はないと思ったものの、一緒に行った友人も同じものを同時に見ている。なにが起きた訳でもないが、あまりの恐さにふたりして逃げ帰って来たのだった。

そういえばこれを書いていて思い出したけど、このKY2川の上流には温泉があり、旅館が数件あったはずだが、20数年前だったろうか、川沿いに立つ旅館の1つが対岸から川を渡って押し寄せた雪崩で崩壊し、若おかみと子供2人など家族4名が亡くなった。当時はまだ雪が多く、数メートルも積もることが珍しくなかった時代。地元ではもちろん大きなニュースになったと言う。

雪崩のあった2年後の真冬(事故のことは知らずに)、新築旅館の広い湯船に1人浸かりながらも、冷気に包まれたように背中がゾクゾクしてちっとも暖まらず、「こんな良い温泉で、なんで体が温まらないのだろう?」と、不思議な思いで対岸の暗い雪の壁をずっと眺めていた。

翌朝ただ1人生き残ったご主人が送りに出てくれたが、そのとき雪崩の話しを伺い、暖まらなかった理由に自分なりの辻褄を合わせることが出来た。雪崩が起きたのは、若女将が子供ふたりとその湯船につかっていたときだったのだ。
nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:旅行

nice! 2

コメント 2

上海狂人

この話もきちんとオチもありいい話です。
カメラ仲間の怪談余話と題して本でも作りたいですね。
by 上海狂人 (2010-11-02 23:35) 

川越

>上海狂人 さま
いつもコメントありがとうございます。上海狂人さまはたしか十日町に縁がありましたよね?私の書いたエリアはもちろん、話しはいままでに聞いたことはないですか?勘違いでしたらごめんなさい。怪談余話、おもしろそうですね。
by 川越 (2010-11-03 00:12) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0