「秋山紀行」は数年前にこの地に引っ越すことが決まった頃から気になっていた本だった。古本はその時によって価格がかなり変動することがあって、なかなか手が出なかったのだが、やっと手頃な値段で手にすることができた。

「江戸文政年間、越後塩沢の文人・鈴木牧之が、秋山郷において今日の民俗学的調査法で聞き取りを行い、衣食住、方言、信仰などの風俗習慣や村落構成、自然景観について書き残した、日本で最初のフィールドワークを現代語に訳す」。とアマゾンにある。

190年ほど前の秋山郷の記録となれば、以前紹介した「山と漁師と焼畑の谷」の秋山郷についての記述のさらに昔の記録になるのだろう。本人のものとしては「北越雪譜」があり、こちらも一緒に読むことで雪国の暮らしがよりリアルに想像できるかもしれない。

オリジナルは古典なので読めないため、現代口語訳を選んだが、手にした本自体は信州大学付属中学の創立50周年記念のために、郷土信濃の豊富な資料や伝承などの古典を読みやすくしたものだ。

おかげで内容もわかりやすく、当時の人々の暮らし、そして考え方までもが作者である鈴木牧之と共に旅をして伝わるような表現でつづられている。それにしても当時の暮らしぶりは今では想像もできないほど質素というか、家も家具も服も道具も、それこそ何もない。それでいて人間性は今よりもはるかに優れているように感じるのは皮肉なものだ。

秋山郷には好きな温泉もあり、何度か行ったことがあるが、本の内容を頭に入れて再度訪れてみたいものだ。しかし何も知識がなければ気にならないことも、本の内容を知った今ではあまりの変化に戸惑ってしまう恐れは十二分にありそうだ。