唐突に思い出したので、忘れないうちに伝承の類いを1つ。

今から半世紀ほど前のこと、北海道の千歳ではアイヌ語で「ケナシウナルベ(魔性の鳥)」と呼ばれるフクロウの仲間がいた。このフクロウは今ではもう見ることができないというが、半世紀ほど前には山に入ると特定のエリアで見ることができたらしい。

大きさは10センチほどというので、フクロウとしてはかなり小型になる。手鞠のような、尾っぽのない鼠を水につけたような、ぼさっとした黒っぽい鳥だったという。ちなみに現在日本で見られる最も小型のフクロウは、コノハズクと呼ばれる種で、体長は20センチほど。

これは「アカスズメフクロウ」で、体長15センチほど

神に祈る言葉をいろいろ知るアイヌ達にさえこのフクロウが嫌われるのは、この鳥が災いを連れて来るからだといわれている。奇妙な声でいろいろな音の響きをまねて人に聞かせるのだ。

たとえば浅瀬の川があると、そこを大勢の人が川を歩くような「ジャボッ、ジャボッ」と音を出したり、何十人もの人が騒ぐような「うぉぉ、うぉぉ」と声を出したり奇声を発したり、そうした音を何種類も同時に出し、「ボシュッ、ボシュッ、うぉぉ、ボシュッ、ギャ〜」とやったりするらしい。

これには何日も熊を1人追い、山中での生活に慣れたアイヌの猟師達でも「熊なんかよりずっと恐い」と恐れ、眠れない夜を過ごすことになったという。(1923年生まれ アイヌ民族最後の熊撃ち猟師 柿崎等さんの語りから)