正面の山が八海山らしい。八海酒造はこんな田圃だらけの綺麗な水に囲まれたところにある。

もうずいぶんと前の話しだが、初めて「七厘」を見つけたときのこと。川越でたまたま見つけた小さな日本酒の飲み屋があった。酒屋さんの隣の一角を間借りしているような、カウンター席が7つほどの飲み屋で、入り口も目立たずこっそり明かりを灯しているような飲み屋だった。相棒と恐る恐る入り口を開けて、「こんばんわ」と中に入ると、無愛想なマスターが1人でやっている。どうみても趣味の酒屋という風情で、お客は多くはなさそうだった。

ところがギッチョンチョン!品数は多くないものの、つまみは美味いし、お酒がうまい。「飲み屋で酒がうまいなんてのは当たり前だ」なんて思うけど、それが意外とうまい酒を気持ちよく飲ませてくれるところは少ないものだ。おまけにとてもリーズナブル。すっかり気に入って贔屓にしていたのだが、その飲み屋のお誘いで行ったのが「八海山」。そう、日本酒で有名な新潟の八海酒造だ。

その頃は日本酒の名前などろくに知らず、ただただ「うまい酒だなぁ」と飲んでいた。サッパリした飲み口でありながらしっかりとした米のコクがあり、私は「甘くてうまい酒」と思っていたので、とある酒屋で「八海山のような甘口のお酒をください」といって笑われたことがある。八海山は辛口で知られた酒だったのだ。

どうした縁か知らないが、その八海酒造にその飲み屋の常連客とおじゃました。先代の社長婦人、「おかっさま」と呼ばれる南雲仁(あい)さんが、自ら地元のものを使ってもてなしてくれたのだ。「昔は小さくお金のない酒蔵でしたから、しかたなくこういうことを始めました」ということだったが、質素ながら料亭にも負けない味。しかもお酒は外に出ない特別なものが飲み放題。夢のような一夜を過ごして帰って来た。あ〜、また行きたいものだが、こればかりは縁がなければままならない。