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意外な出会い(つんぼ) [道具]

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昨日のブログで、軽トラ市でもらって来た道具の話をしたけど、その中に良い作りのナタがあり、自分で使おうと書いた。そのナタを研いでみたらびっくり!銘はないと思っていたけど、黒焼きの色を落とさないようにそっと錆を落としていたら、錆の下から「つんぼ」という銘が出て来て、思わず「なにっ!」と声が出た。

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大工道具などの刃物に興味が出て来た頃「つんぼ」の斧に憧れていたけど、今でもやはり人気があるようで手頃な値段では他の刃物を含めて入手することができなかった。その「つんぼ」のナタがこうして目の前に来るなんて、全く夢にも思わなかった。

考えてみれば「つんぼ」は、お隣上越市の鍛冶屋。手に入れたのが半世紀前なのか、1世紀前なのかわからないけど、昔から普通に往来があった地域なのでこの地で「つんぼ」が使われていても不思議はないし、蔵が立つ家なので地元の鍛冶屋よりも良いと評判の道具を使っていたのだろう。

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「つんぼ」とは、新潟県高田市(今の上越市)に五代続いた鉞(まさかり)鍛冶のいわゆるブランド名で、つんぼ鍛冶は初代から五代目までどの代においても『鉞といえばつんぼ』と言われるほどの名人であったという。

「つんぼ」の由来は、腕のよかった初代が働いて得た金で放蕩三昧の挙句に失聴してしまった経緯を忘れぬよう、自戒を込めて自らつけたもの。頑固な職人らしい話ではあるが、現代では「つんぼ」という言葉は差別用語とされてしまった。200年余りも前の時代には当たり前のように使われていた言葉で、戒めとして鍛冶屋の銘とされた言葉も、「難聴」ではどうもピンと来ない。

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これについては、平成30年に出版された「大工道具に生きる / 香川 量平」によれば、次のような記述がされている。

『新潟県西蒲原郡分水町に宮大工、沖野工務店がある。棟梁の沖野幸平氏が現在使っている「難聴」という鉞を見せてもらったことがある。大工用の中型の鉞であるが、沖野棟梁が長年愛用したが、欠けず曲がらず見事に鍛えられ、なに一つ欠点がなく、日本一という鉞鍛冶「難聴」の作品に感心していた。この鉞は新潟県高田市の鍛冶屋が鍛えたもので「難聴型」と呼んでいる。
初代の鍛冶屋が耳が遠かったので、差別用語を避け、このように呼ばれるようになったそうである。』

「難聴型」・・・?これじゃそれこそ何のことかわからないし、その理由を調べてみようと思う人も少ないんじゃないだろうか。

ところで使用感を少し書いてみると、重量はうちには500gまでの計りしかないので測れないけど、たぶん600〜700gオーバーで結構重め。よく使う小型の斧より若干重い。握りの部分も太めで全体の長さも40センチ弱ある。ところが重心の位置が握りの少し先にあってバランスが良く、打ち下ろすにはとても使いやすい。断面が弧を描いている(裏梳きがある)ので切断力は重量もあって相当なもの。軽い力で乾いた枝でもスパッと切れるし、斧のように使って太い枝を切るのも造作ない。

鋼の量、裏梳きの形も良く研ぎやすく、裏押しの幅も打ち付ける刃物らしく十分に広い。背から刃先にかけては徐々に薄くなり、切れ込む感触は素晴らしい。さすがは「つんぼ」だ。

これを手に入れた人は大事にしていたのだろう。まだほとんど減っていないようにも見えるので、自分としては一生物の刃物になるに違いない。さっそくこのナタのケースを作って大事に使おう。
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